まじでひま

別に暇じゃないし、どちらかというと忙しい

いきりオタクのパラサイト考察

2020アカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画パラサイト」。
「観た後考察が止まらなくて誰かと語り合いたくて仕方なくなる映画」、パラサイトは私にとって久しぶりにそんな映画でした。

せっかくたくさんの人に読んでもらえるブログをやっているので、ここに思ったこと、考察を殴り書きしたいと思います。

 

ネタバレ考察に入る前に一つだけ!

パラサイトが好きだった方、ぜひ「バッドジーニアス」というタイ映画を観てみてください!おすすめです

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心拍数急上昇!禁断の試験シーン!『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』本編映像

 

バッド・ジーニアス 危険な天才たち(字幕版)

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  • 発売日: 2019/02/06
  • メディア: Prime Video
 

 

 

 

 

注意!ここから先は、ネタバレを含みます。観ていない方はご注意を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

差別


たくさんの人が感じるとおり、私もこの作品は「差別」がテーマだと思いました。差別も差別で、している方は気にしていないような、目に見えない小さな差別です。


パラサイト内で言えば「匂い」です。金持ち一家のパク社長が匂いについて言及するシーンでは、半地下一家の父、ギテクがテーブルの下に隠れつつ、匂いを気にしています。奥さんの方も、ギテクが運転する車内で匂いを気にして窓を開ける描写がありました。最後にギテクがパク社長を殺害する明確なきっかけになったのも、パク社長が地下シェルターの男の匂いを気にする仕草からでした。

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例えば身なりとか、振る舞いとかは、どんなに恵まれていなくても頭を使えば上手く誤魔化せる訳です。特に私は半地下一家は「賢い一家」として描かれている印象があり、4人が難なくパク一家に寄生出来たとおり、上っ面を取り繕うことは簡単なことだ、というメッセージを感じます。


でも匂いって、もう「生まれ持った」というか「染み付いた」もので、どんなに頑張ったって直すことはできない。ここで言う匂いが言葉通りの匂いなら、デオドラントスプレーなり香水なり、あと洗剤を変えるなりすれば直るけれど、ここで言っている匂いって、「あいつは金の匂いがプンプンするぜ!」「あの女、男の匂いするわね」みたいな所謂「匂い」とちょっと似ていて、も直すとかのレベルじゃないんですよね。そういう事象についての差別ってもうどうしようもない。しかも、差別しているパク一家には、全く悪気はないし、むしろ差別しているという意識すらないからもう救いようがない。


そういう「目に見えない差別」って、ただの差別よりずっと身に迫る時がありませんか?貧富の差に限らず、容姿の差、能力の差とか。例えば、「やーいクソブス!」って面と向かって言われたら「いやお前何言うてんねん」ってちゃんと怒れるし抗議もできる。周囲に助けを求めることだってできる訳です。でも例えば、「友達の美人は大学のサークルにたくさん勧誘されたのに、隣にいた地味な私はひとつも勧誘されなかった」だったらどうですか?勧誘している人は「差別している」という意識はないのかもしれない。でも、それは、知らないうちに容姿で差別しているってことなんですよね。しかも証拠もないから抗議もできない。ただ、された側が差別されているというモヤモヤした気持ちを、受け止めるしかない。


そういうモヤモヤが溜まりに溜まって、最終的に、ギテクには「殺意」まで発展してしまった、というのがパラサイトの一番の怖いところを表現しています。パラサイトにとって一番ホラーなのは、「この差別している側に自分も立っているかもしれない」ということです。実際私も、こういう差別を受けたという心当たりはあっても、こういう差別をした、という心当たりは全くありません。それが怖いな、と思いました。私も確実に、どこかで誰かを差別して傷つけているであろう加害者にほかならないからです。

 

 

 

平面感と立体感


パク一家の豪邸は、前の住人の有名な建築家(だっけ)が建てたという設定の通り、豪華で奥行きのある作りになっています。ですが作品の序盤では、かなりぺたーっとした、平面的な印象を受けました。例えば、リビングから撮った、階段とキッチンがいっぺんに映るカットは、壁と水平に撮影されていて、1枚の絵画のような印象を受けます。2階の造りも「各々の部屋と風呂、サウナがある」以外は明かされていなくてぼやっとしています。

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平面的に撮られているように感じるカット



ですが物語中盤、前任家政婦が雨の中豪邸を訪れ、地下シェルターの存在が明るみに出るシーンで、突然豪邸に、立体感が出てきます。家の中での高低差という、不気味な立体感。突然平面の世界に奥行きが出てきてめちゃくちゃ気持ち悪い。


昔、スーパーペーパーマリオっていうWiiソフトがあったんですが、知っている方いるかな…。一見普通のマリオのように2次元世界の横スクロール型RPGのゲームなんですが、コマンドを使うと横側から見る視点になって、奥行きのある世界を楽しめる、というものです。

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www.youtube.com

私はそれにも言葉に表しがたい気持ち悪さを感じていました。自分の見えていなかった部分に想像もしない世界が広がっている感じ。月の裏側で、宇宙人が乾杯してるかもしれない、みたいな。パラサイトの立体感に感じる気味の悪さは、スーパーペーパーマリオをプレイしていた時の気持ちに似てますね…。

 

 

 


「パラサイト」という題名になっているだけあり、この作品には虫が象徴的に出現します。
冒頭で現れた便所コオロギを半地下一家は消毒で殺そうとしますが、自分たちにも消毒薬がかかりケホケホ、苦しそうにします。まるで半地下一家が、人の家で隠れて暮らす便所コオロギだ、とでも言いたいかのよう。
更に、半地下一家がパク一家の豪邸で豪遊するシーンでは、「ここでパク社長が帰ってきたら、この人はコソコソ逃げるのよ。ゴキブリみたいに」という、夫をゴキブリと揶揄した奥さん、チュンスクの発言がありました。
作品内で虫を利用した比喩がたくさん使われており、作品ポスターにもしっかり便所コオロギが写っています。チュンスクの足に注目!

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異質だったダヘ

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金持ち一家の長女ダヘに関して、私は「異質」に描かれていると感じました。
というのも、私は、最初ダヘがギウの腕を掴んでキスをした時、ダヘはお金持ちのパク夫妻と同じように、お金持ちの記号的存在なんだと認識していました。ミニョクがダヘと付き合う、と断言していたように、ギウもダヘに惚れ込み、付き合うと家族に宣言します。ダヘは年上の男性だったら誰でもいいタイプ、いわゆる世間知らずで可愛いだけの軽い女、ボンボン娘のように映りました。ミニョクとできていた(?)のに、ギウともそういう関係になってしまうダヘに、私と同じ印象を持った人は多いと思います。
しかし、ダヘへの印象は、映画後半のあるシーンで大きく変わります。
地下シェルターの男に頭を殴られ倒れたギウを、ダヘがおんぶして逃げるシーンです。ダヘはギウに本気で惚れ込んでいたのです。本気じゃなかったら絶対放置して逃げるし、ポン・ジュノ監督がダヘを「パク一家サイド」として描きたいのなら、ミスリードを招くおんぶするシーンは絶対に入れないはずです。


ダヘは、パク一家の中でも、半ば仲間外れにされている印象を受けました。彼女も好物のジャージャーラーメン(チャパグリ)はダソンの為のものだった。それに、パク夫妻が幼いダソンに様々なものを買ってあげる、見守るシーンは沢山ありますが、ダヘに関してはほとんどありません。幼い妹弟がいるお姉ちゃんあるあるなのかもしれませんが、構ってもらえていない印象が強い。


彼女にとってギウは、心の拠り所だったのではないでしょうか。家の中で、唯一自分だけを愛してくれる人。自分だけを見てくれる人。ダヘは、半地下一家を見下すパク夫妻とは違い、真実の愛を持ってギウを見つめる、異質な存在だったと言えます。

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それを踏まえてよくよく考えてみると、ダヘとギウの関係に関しては、開かれていない情報がいくつかあります。例えばダヘが、ギウが連れてきた美術の家庭教師ジェシカ(に扮したギジョン)に嫉妬するシーンで、ギウは「あの人(ジェシカ)がバラなら君は…」とノートの端に何やら書きます。2人は照れ合ってそのまま前述のキスの流れになりますが、そこでギウが何と書いたのか、は最後まで明かされません。さらに、パク一家のキャンプ中、ギウはダヘの日記を持ち出して読みますが、その内容に関しては一切語られません。それどころかその内容が伏線になることすらありません。これらの事柄を、監督は「2人だけの秘密」として描きたかったのかな?と私は思います。


ここで2つの疑問が残ります。まず1つ目は、何故ダヘをパク夫妻とは違うサイドで描いたのか?これは、パク夫妻の持つ差別意識は、生まれながらにして持っているのではなく、生活する上で獲得するものだ、ということを表しているのではないでしょうか。裕福でも差別意識を絶対に持たない人もいるし、半地下一家のような生活をしている人でも、裕福になった途端差別し始める人だっているはずです。そして、ダヘのように差別をしないで人を見られる人もいるはずなのです。ですが今後、ダヘが差別意識を「獲得」してしまう可能性も大いにある。これがまたこの作品の「ホラー」たる所以なのでしょう。
そして2つ目。それは、「なぜミニョクとダヘも恋愛関係にあったのか」ということです。ダヘを差別の無い愛を持つ女性として描きたいなら、ミニョクとダヘがそういう関係だったという事実は、観客に「ダヘは誰にでも惚れる軽い女」という印象を与えかねません。これに関する答えは、次のトピックで考察します。

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(どうでもいいですがミニョクを演じている俳優さんは私の推しです)

 

 

 

3人の妻とメダル


さて、ダヘの恋に関して考察しましたが、ここで3つの夫妻について考察してみましょう。
まず、地下シェルターの男夫妻。この夫妻は直接考察には関係しませんが、妻は夫のために雇い主を騙して夫を地下シェルターに匿ってしまいます。更に夫の方も、妻を殺した半地下一家の奥さんに復讐しようと躍起になっています。途中挟まれた夫婦がパク一家のリビングで仲良く寛ぐシーンからも、若干頭がおかしくなるくらい強い絆で結ばれた夫婦と感じられます。


次に、パク夫妻。

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この夫妻に関しては、非常に軽薄な関係のように映りました。
パク夫人は若くて綺麗な妻、でも料理と家事は苦手です。夫人が料理をするシーンは全くありません。半地下一家にも易々と騙されて、正直こいつ何が魅力なん?という印象を受けます。多分若くて綺麗なのが魅力なんでしょう。
パク社長はそんな彼女のことをしっかり「料理と家事は苦手だ」と理解していました。では何故結婚したの?「それでも奥様を愛しているからですよね?」そうキム運転手、もといギテクに聞かれたパク社長は、イエスとは返事せずに言葉を濁します。
パク社長にとって夫人は、「自分をたてるいいお飾り」だったのではないでしょうか?豪邸や、車や、時計と同列な存在なわけです。若くて綺麗で単純で、セックスさえできればいい。えっそのシーンほんとに必要?と言いたくなるちょっと滑稽なソファでのラブシーンもそれを表しているのかもしれません。


対して、半地下一家の夫妻はどうでしょう?

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半地下夫妻のシーンで一番印象に残っているのは、パク一家のキャンプ中、「ゴキブリ」と揶揄した妻とそれに怒った夫が、喧嘩を始めるフリをするシーンです。妻に掴みかかろうとする父を見て、息子と娘は「やめとけ殺されるぞ」と止めようとしますが、それは2人の戯れで、すぐに2人して爆笑。このシーンでこの夫妻は、子供すら分からない2人だけの空気感がある、仲の良い夫婦として語られています。

半地下一家の奥さんは、砲丸投げのメダリスト。壁に銀メダルが飾られていますが、家が浸水したシーンでメダルを心配し誰より先に手に取ったのは、夫のギテクでした。
これらのことを踏まえて考えます。地下シェルター夫婦は一旦置いておいて、パク夫婦とギテク夫婦は対照的に描かれていると考えられます。


ここで、ミニョクについて話を戻しましょう。

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ミニョクは、ギウに自分の抜けた穴になる職を紹介する、「良い友達」として描かれているように見えます。ですが彼がギウにその仕事を紹介した理由は「ギウならダヘと恋愛関係にならないと思ったから」という理由でした。お前なら教え子に手を出したりしないよな?という意味にもとれますが、それではダヘに惚れているミニョク自身も否定している意味になってしまいます。ここでのミニョクの発言は、「お前みたいな貧乏人がダヘと恋愛関係になるはずがない」という意味にもとることができます。
とすると、ミニョクもパク夫妻と同じ、「お金持ち側」として描かれているのではないでしょうか?そう考えると先程の疑問、「何故ミニョクとダヘが恋愛関係にあったのか」という疑問も解決します。ミニョクにとってのダヘは、パク社長にとっての奥さんと同じ、「お飾り」に過ぎなかったのです。

 

 


(おまけ1)ダソン

ここでは、私の考えた考察ではありませんが、パラサイトを見た先輩から聞いたダソンに関する情報を少しまとめようと思います。

 

①ダソンの絵

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パク一家の天才肌の息子として描かれていたダソン。途中彼の描いた自画像が出てくるのですが、これは地下シェルターの男を描いたものだという解釈ができるらしい。確かに、特徴的なぎょろっとした目、不自然に暗く描かれた絵の下辺、そして「あがってくる」様子を示唆するような矢印が絵には取り入れられています。

 

②モールス

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日本語版では、地下シェルターの男の電気の消灯によるモールス信号を読み取ろうとする庭のテントの中のダソンは、「助け」までは読み取れているように翻訳されていたかと思います。ですが、その他の言語では(韓国語オリジナル版では?)読み間違えて正しく意味を取れていない、という表現らしい。日本語版を見たときは、ダソンは意味を分かっていてわざと地下シェルターの男を助けなかった、または解読をあえて途中でやめたのだと思っていましたが、そうではないようです。

 

③インディアン

ダソンがインディアンにはまっていることは、半地下一家の「侵略」の隠喩になっているらしい。その昔、インディアンが侵略を受けたように…。そんなことまで考え尽くされているのか。やばいっすね。

 

 

 

(おまけ2)ギジョンばり良い

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個人的な好みの話になりますが、ギジョン、めちゃくちゃよかったですよね?!画面映え甚だしい

というわけで好きなギジョンのシーンを私の絵で紹介しようと思います!

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マジでごめん

 

 

(おまけ3)チャパグリ

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作中に出てきた、ダヘとダソンの大好物、チャパグリを作りました!

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作り方は大いに簡単。即席麺の「チャパゲティ」と「ノグリ」を作って混ぜるだけ。濃厚でからうまでした。

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韓牛を入れていたパク家に対抗して国産牛を入れたかったのですが、これしか買えませんでした。

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Money is power.